Hojo Roof

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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018の展覧会「2018年の〈方丈記私記〉」に出展した作品である。公募内容は移動式・組立式で2.73m四方の小空間に各自の解釈で現代の方丈庵を表現する、というものだった。世界各国から案を募り、選定された作品を新潟県十日町市に建つキナーレ(原広司氏設計)の回廊に配置し、仮想の村を形成する試みである。会期が終わると、十日町市中心市街地の空家・空き店舗などの既存建物内に移設し、地域活性を目指すという構想もあった。また、瀬戸内芸術祭で何らかの機能を与えて使ったり、受入希望の地方自治体があれば、十日町市以外の地域への移設検討の話もあった。
そういった背景を踏まえて、私達は置かれる環境に応じて機能を変えることのできる多機能な構築物を提案するのがよいと考えた。さらに、一人/大人数、単一機能/複数機能で使っても違和感がなく、自然に成立しているようにもしたいと思った。例えば、集落のバス停に置いて、バスを待つ間、その地域の人達が休憩する小さな公共スペースとして使ったり、商店街のアーケードに置いて、複数店舗の入るチャレンジショップとして使ったり、移動図書館が巡回する公園や小学校に置いて、子供達の図書閲覧室として使ったり、色々な環境に置かれた使い方を想像してみた。このような、使い方に幅のある活動を可能にする為には、方丈の内外にわたって魅力的な居場所が点在し、それらを状況に合わせて、使い手が気軽に組み合わせたり独立して使うことのできる仕組みが必要である。
原広司氏の本展公募に添えられたテキスト「局所性(ローカリズム)と変革の意味」にも大変触発された。原氏は「方丈記が世界史上稀有な建築論と言えるのは、<縮小の過程から、突然、住居ではなく、外界が出現してきた>という空間の転換の報告があったからである。これは、ミクロの世界を注視していったら、マクロの宇宙が見えたとの報告であり、方丈記は反転のデバイスの発見である。」と述べている。
そこで、方丈内で居場所を細分化して分離し、同時に外に向けて意識や身体が拡張するような境界の検討を進めた。そうすることで、居場所が内外に複数生まれるし、何より鴨長明の方丈庵よりさらに縮小された局所に現れる外界を経験してみたかった。
具体的には、living / study / restと名付けた特徴の異なる三つの場所に平面を分け、livingは半外部として外と直接つながり、studyは外にも居場所を作る壁のような建具を設け、restは二方向に開閉する折りたたみ蔀戸を設けた。建具には風や光、視線も透過するロールスクリーンのメッシュ生地を枠に挟み込んだ。建具を開くと、外と一体の活動領域が生まれ、内に入らなくても直接アクセスすることができる。建具を閉じると、外の様子はメッシュ生地越しに感じながら、非常にプライベートな空気になる。加えて、livingやrestを通り抜けできるようにすることで、方丈内外を行き来する経路が様々生まれ、各場所を組み合わせたり、独立して使うことが容易にできる。
仕切り壁の高さは地面から1.5m以下にして、各場所が周囲から適度に隔てられつつ開放感も感じられるように三枚の屋根を立体的にずらして配した。方丈内に立つと、周辺を水平・垂直にあちこち見通すことができ、外と連続した一体感を感じる。一方で、座ったり、寝転んだりすると、視界が狭まり、他の空間からは独立したように感じる。体勢を少し変えるだけで、物理的距離と心理的距離の「遠い/近い」の感覚が刻々と変わっていく。
部材は移動式・組立式であることから、持ち運びやすい重量とサイズとし、通常の建築を構成する部材寸法では存在感が大きすぎるので、部材厚を25mmで統一し、大きな家具であり小さな建築にも感じられるスケール感を目指した。柱はサイズが小さくても強度のあるSUS-25×25×1.6(角パイプ)とSUS-150×25×3 (FBt3曲げ加工)の2種類とし、周辺環境が映り込み境界が曖昧に感じられるように磨き仕上げとした。地面に接するところでは柱にアジャスターを設け、設営場所の地面勾配に対処する。床・壁の面材はバーチ合板t25mmとし、大地を想起させる小麦色になるようにオイル塗装仕上げ。屋根の面材は軽量化の為にバーチ材フラッシュt25mmとし、雨水対策でウレタン塗装仕上げ。スプルス材の開き扉の厚みも全て25mmにして、折りたたみ蔀戸はSt-12×12(各パイプ)で構成し、折りたたんだら24mmになる。また、SUS柱と面材合板を直接ビスで固定してしまうと、解体・組立を繰り返すうちに合板のビス穴が開き、使えなくなってしまうので、合板にはバカ穴をあけ、柱と合板・合板と合板の間にネジ穴加工したSUS-FBt3を差し込んでいる。そのため、何度もビスの抜き差しをしても合板自体には影響がないので、材が劣化しない限り使い続けることができる。
炎天下の施工当日、柱と壁を固定し連結していくと、全ての部材があちこち動いて不安定な状態だったが、屋根を一枚ずつ固定していくと徐々に全体が固まり、最終的にはピタッと動かなくなり安定した。会期中はstudyでソフトクリームを売り、livingで地元の農家さんがお米を売り、restではキナーレ中庭に設置されたLeandro Erlichの「Palimpsest:空の池」を鑑賞する休憩所として使われた。それぞれの居場所に異なる目的で集まった人達が物理的には近い距離にも関わらず、心理的には互いを遠くに感じて、気を遣うことなく各人好き勝手に時間を過ごしている様子が面白かった。もしかしたらそれは、極限まで縮小した近接する三つの居場所それぞれに外界が独立して現れ、あちこちに散らばっていきそうなところを屋根で繋ぎ止めることによって生まれる現代的な距離感や景色なのかもしれないと感じた。
この建築の視覚的な特徴は、ばらばらに解けそうな局所の集まりに全体性を与える三枚の屋根である。その屋根の風景が、置かれる様々な環境の中で馴染み、小さなランドマークになることを期待して、作品名を「方丈の屋根」とした。
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主要用途:多機能スペース
専有面積:7.29㎡
構造:鉄骨造+木造
構造設計:福島佳浩
写真:長谷川健太
施工:建築企画曽我
竣工:2018