Hida city hall reception room

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飛騨市役所庁舎内にある応接室の改修計画である。
周囲を山脈に囲まれた飛騨市は面積の93.5%を森林で占められており、そのうちの約7割は多種多様な天然広葉樹で構成されている。径が平均的に細いことから90%以上はチップとして加工され、地域外で安価に取引をされており、チップ以外に加工される場合も小物や家具の脚といった限定された活用に留まっている。
市は市場の中で「飛騨市広葉樹」の価値を向上するため、外部クリエイターや市内の木工作家との連携によって市内産小径木広葉樹の商品化・ブランド化に取り組んできた。この活動を通して、材の需要を高めて適正な価格で取引を行い、この利益によって、手付かずの森に手を入れながら大きな広葉樹が育つ森にしていく、という長期的な構想を立てている。
公募の際には応接機能だけでなく、市内産広葉樹を活用した取り組みや木製品の情報発信の為のショールーム機能、市内外の人が交流する機能を持った木質空間が求められた。
計画地である応接室は市役所1階の通りに面した東角に位置し、2方向に大きな開口部を持つ間口4m×奥行7mの小さな部屋であった。
株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)と矢野建築設計事務所の協働でこのプロポーザルに参加するにあたって、実際に飛騨の広葉樹の森に入り、製材所や木工所を訪れた上で提案を行った。プロポーザル後も飛騨市の優れた木工技術を持つ事業者と協力し、様々な実験を繰り返しながら制作に取り組んだ。
我々は床や壁の仕上げに木材を採用する一般的な活用方法ではなく、「小さな材によって構成された大きな造形を配置する」ことで、広葉樹の存在が積極的に空間の在り方に関わり、時間帯や利用者の創意によって様々な使い方が可能な多目的空間を目指した。広葉樹を表面的な情報としてではなく、具体的に触れて使ったり、他の人が使っている様を目撃したりする経験が、効果的なPRに繋がると考えた。
具体的には、部屋の床、壁、天井にそれぞれ大きな3つの什器を設置し、什器以外の部分は既存のコンクリートと同系色であるグレーに統一した。
床には全長4m 高さ82cmの大きなミズナラ材のテーブルとハイチェアを部屋の中央に設置して室内の回遊性を確保した。また、テーブルの天板面は材をルーバー状に並べ、複数の樹種で造られた四角型と丸型の天板プレートを使い方に応じて配置する形式を採用している。壁には50㎜幅のホオノキ材を濃淡のグラデーション状に並べた背もたれ1.8mのベンチを取り付け、天井にはブナ丸太の表面をかつらむきにした薄さ0.6mmの突板によるランプシェード吊るした。辺りが暗くなると木目を通した柔らかな拡散光が街並みの中で優しく浮かび上がる。
それぞれの什器は複数の用途が複合化した造形を採用することで、応接機能や調印式等の対外的な活動から、展示や昼食会といった市民にとって身近な活動まで対応可能な、自由で生き生きした空気感を作り出すことを心がけた。
広葉樹材の魅力発信をきっかけに地方都市の市役所の一角にある小さな部屋が自然と人の集まる象徴的な場所となることを期待している。

drawing (click)

所在地:岐阜県飛騨市
主要用途:応接室
専有面積:28㎡
構造:コンクリート造
規模:地上3階建ての1階一部
協働:飛騨の森でクマは踊る 岩岡孝太郎・飯山晃代
写真:長谷川健太
施工:田中建築
竣工:2020
紹介ページ:
https://hidakuma.com/blog/20200824_hida-city-hall-reception-room/